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2024.01.14

日本酒の作り方③酵母と酒母、そして醪(もろみ)

清酒製造工程の説明をする際「酵母」、「酒母」、「醪」等専門的な用語がよく出てきますがうまく説明できない場合がしばしばです。他の酒類・ぶどう酒であれば果実をつぶし果汁(糖液)とすればそこにぶどう酒酵母が介在し発酵が起こるような簡単な説明とはいきません。清酒の仕込み工程では仕込み水に蒸米、米麹、酒母を加え発酵が進みます。ここで混乱するのが酵母と酒母、言葉は似ているがどこが違うんだとなります。アルコール発酵をする微生物が酵母、では酒母とは?となります。

醪の発酵タンク中では麹による糖化作用と酵母によるアルコール発酵作用が同時進行(並行複発酵)して清酒は出来上がります。清酒の原料である白米はでんぷん質の集まりです。清酒酵母は残念ながらで
んぷんを直接消化(食べる)できないため何らかの方法で酵母が消化できるよう米デンプンを糖に分解する必要があります。

例えばご飯を食べると唾液によってでんぷんが糖に変わり口中では甘味を感じるようになります。酒の最も原始的な「口かみ酒」は発酵を意味する「醸す」は噛むが語源と言われ、かむ→かむす→かもすに変化した言葉です。清酒製造では唾液の働きを麹により置き換え米澱粉を糖に分解し醪の発酵が進むようにしています。

ここからは酵母や酒母、醪等の説明を製造順に進めてまいります。

*製麹(せいきく)

麹は蒸米に麹菌を繁殖(はやした)ものが真っ白な麹です。蒸米を 30 度位に保った麹室(こうじむろ)に引き込み種麹を散布し、40~50 時間で麹が出来上がります。途中、麴菌が繁殖し品温が上昇するため蒸米の塊をほぐす手入れや、品温管理を昼夜の別なく行ない麹が出来上がります。これが麹の製造工程となります。

出来上がった麹と、蒸米、仕込み水を混ぜ低温環境下での糖化作用が発酵タンク中でゆっくり進みます。

*酒母について

このあたりからやや複雑な発酵管理となります。酒母タンクに仕込み水、蒸米、麹を投入しそこに純粋培養した清酒酵母を添加、増殖させたものが酒母で、一般的には約2週間で出来上がります。酒母は醪がアルコール発酵するためのスターターの役割で、字のごとく酒の母、つまり酒母(親の)の性質がそのまま清酒醪(子供)の発酵の強弱、出来上がる清酒の香味の特徴となり、人と同じく親に
似ない子供はいないのです。

酒母は1本の醪の仕込み量の6~7%で、目的は酵母のアルコール発酵よりも純粋な酵母の増殖にあります。一方、後ほど述べる醪は増殖した酵母によるアルコール発酵が目的です。酒母仕込みも醪仕込み作業も開放状態の発酵タンクで行われるため、雑菌の飛び込みも当然あり目的とする清酒酵母だけが増殖する保証はどこにもありません。飛び込んだ雑菌の繁殖を防ぐための方法として低温環境下で仕込み同時に乳酸を添加し酒母タンク中を酸性とし、低温と酸性のダブル効果で雑菌の増殖を抑え込みます

添加された種酵母は低温、酸性環境下に強く開放状態のタンク中でも目的とする清酒酵母だけが増殖する複雑で巧みな方法です。酒母仕込みでは一般的には乳酸を添加し酸性とする方法と仕込み水や空気中
に存在する乳酸菌によって酒母を酸性化する二つに大別されます。乳酸を添加し育成する方法を速醸モト、自然界から飛び込んだ乳酸菌による乳酸発酵による乳酸で酸性化する生モトがあります。

後者は山廃モト、生モトなどと呼び酒母仕込み前段で乳酸発酵工程が約 2 週間必要なため速醸モトの 2 倍、約1か月間の育成期間を要する複雑で高度な技術が必要とされます。大正時代以降、酒造りの科学的な解明が進み乳酸を添加し乳酸発酵を必要としない速醸モトが多く使われています。

商品の味わいや香りといった酒質の特徴は、酵母の特性によるところが多いため、使用酵母と原料米との相性、精米歩合など各要素と組み合わせ特徴を引き出しております。

特定名称酒の本醸造酒や純米酒及びレギュラー普通酒は弊社で最も多く飲まれるタイプです。そのため普段飲み慣れた味わいと飽きがこず且つ発酵力の強い協会 7 号系酵母を種酵母として使用しています。この 7 号酵母は日本で最も使われている清酒用酵母です。

一方、吟醸酒タイプの商品については軽快な味わいと華やかな香りが求められるため吟醸酒系酵母と呼ばれるバナナを思わせる香りや味わい爽やかなタイプ、リンゴのような香りの膨らみが特徴の吟醸酒酵母など、商品ごとの特徴や味わいを引き出すことを目指しています。どの酒質が優れているかも大切ですが、自分好みの香りや味わいを探していくのも楽しいものです。

*醪(もろみ)発酵

仕込み作業のハイライトは醪仕込みでしょう。醪が健全に発酵していくためには醪 1ml 当たり約 2 億個程度の天文学的な酵母数が必要です。1 本の醪仕込み作業は徐々に量を増やしながら 3 回に分け 4 日間かかります。

1 日目は「初添え」と呼び育成の終了した酒母量に対し倍量程度になるよう仕込み水、蒸米、麹を加え仕込まれます。

翌日2日目は初添え仕込みで薄まった酵母数を増殖させるため仕込みを 1 日休み、これを「踊り」と呼びます。ちょうど階段の途中に一息つく踊り場があるように醪にも休憩の時間を与え酵母数が回復するのを待ちます。

3 日目は「仲添え」、初添えより量を増やし仕込み水、蒸米、麹を投入します。

4 日目は「留添え」と呼び更に増量添加し 1 本の醪仕込みが終了します。

仕込み作業は3回に分け行われますが 2 日目に仕込み休みの踊りが入るため作業は 4日間かかります。4 日目の留添えが終了した日が醪発酵 1 日目となり、以後 20日から 25 日間発酵管理を行い櫂入れ作業や温度管理が行われ発酵が終了します。清酒の仕込みは3回に分け行うため「3 段仕込み」と呼び江戸時代から大きく変る事のない完成された技術です。

美酒爛漫の故郷は雪国秋田、降雪が生み出す清浄で安定した低温環境を発酵管理に活かした「低温長期発酵」によりゆっくり米の旨味を引き出しています。