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2024.02.29

【秋田の日本酒】大吟醸酒造りについて『其の二』~醪(もろみ)の仕込みから上槽(じょうそう)まで~

目次

1. 醪の仕込み

2. 分析の重要性

3. 醪の化学

4. 醪の管理方法

5. 上槽(搾り)

酒母仕込みから14日間、酵母が健全に増殖することができました。いよいよ、精米歩合40%自社田米「百田」の大吟醸酒の醪の仕込みになります。杜氏を先頭に蔵人達は上槽まで、少しも気をゆるめることができない日々が続きます。大吟醸造りについて醪の仕込みから上槽まで、普通酒との違いを中心にお話しします。

1. 醪の仕込み

精米歩合40%の自社田栽培米の「百田」の大吟醸酒は、総米600~650kgの小規模で仕込みます。総米というのは、醪タンクに入る白米(麹と蒸米)の重量をいいます。普通酒の総米は2000~3000kg、大きなもので7000kgの仕込みを行いますが、大吟醸酒の場合は、手造りで、醪の発酵管理のしやすさから総米1000kg以下で仕込みます。

仕込みは、普通酒と同じく、3段仕込みで行います。一日目を「初添え(はつぞえ)」といって、純粋に酵母を増殖させた酒母と水と麹と蒸米を入れます。二日目は、「踊り(おどり)」といって何も入れないで酵母の増殖を促します。三日目には、「仲添え(なかぞえ)」といって、初添えの約2倍量の白米で水と麹と蒸米を入れます。四日目には、「留添え(とめぞえ)」といって初添えの約3倍量の白米で水と麹と蒸米を入れて3段仕込みの完了です。

仕込みの温度はとても重要で、その後の糖化・発酵に大きく影響してきます。目標の温度(初添え12℃、踊り13℃、仲添え10℃、留添え6℃)にするために、蒸米の温度を0.1℃単位で調整したり、氷を使ったりして仕込み温度を調整します。

2.分析の重要性

昔は、醪の発酵の具合を泡の状態や官能で判断していましたが、今の大吟醸酒用の酵母の主流は泡無酵母(あわなしこうぼ:醪で泡がたたない酵母)なので、分析値がとても重要になってきます。当社では、普通酒以上に多くの項目について分析していて、毎日、醪のロ液のボーメ(日本酒度)、アルコール、酸度、アミノ酸度、直糖、グルコースを測定して、その日の発酵状況を確認しています。

3.醪の化学

醪のタンクの中ではいったい何が行われているのでしょうか?

主にアルコールや香りを造る微生物の「酵母菌」は、蒸米の主な成分であるデンプンを直接食べることはできません。そこで、「麹菌」の造る酵素の働きで、デンプンからブドウ糖に変換します。ごはんを口の中でよく噛むと唾液の中のアミラーゼという酵素が作用して甘くなるのと同じ働きです。これを糖化といいます。このブドウ糖を栄養に「酵母菌」は、アルコールや香気成分、酸やアミノ酸などの成分を造ります。これをアルコール発酵といいます。

醪のタンク内では、20~30日間連続して糖化と発酵が行われ(並行複発酵といいます)、醸造酒の中では16~17%という高いアルコール飲料が造られます。さらに、「酵母菌」は適温が30℃ですが、大吟醸酒の場合11~12℃という低温でゆっくりと発酵させることにより(低温長期発酵といいます)フルーティな香りときめ細かい繊細な味わいの大吟醸酒を造ります。美味しい清酒を楽しむことができるのは、麹菌と酵母菌の素晴らしい微生物のおかげで感謝しかありません。

4.醪の管理方法

一般に普通酒は、大型仕込みで醪最高温度が15~20℃で、20日位で搾りますが、大吟醸酒の場合は最高温度11~12℃で25~30日間、低温でじっくりと長期発酵させます。これにより、香りが高く、繊細で綺麗な酒質の大吟醸酒ができます。現代では蔵の空調やタンクの冷却装置により全国でも低温長期発酵が可能ですが、昔は自然まかせでしたので、寒冷地の東北地方が大吟醸酒の低温長期発酵に適していました。

醪の管理方法として、BMD曲線やAB直線や原エキスなど様々な方法があります。日々の分析値を見ながら、醪の品温を0.1℃単位で上げ下げする神経を使う工程です。また、上槽時に目標の成分にするために、追い水(醪に水を加えること)や、必要に応じて酵素添加などをします。蔵の中の気温や醪の品温の調整の他、追い水や酵素添加の時期や添加量の判断と決断が杜氏の腕の見せ所です。

5.上槽

約30日間、精魂込めて育てた大吟醸の醪のフィナーレが上槽です。

上槽(じょうそう)とは、醪を搾って清酒と酒粕に固液分離することをいいます。搾る方法も様々あり、普通酒や多くの日本酒は「加圧式圧搾法(主にヤブタ)」や伝統的な「酒舟(さかぶね)」で搾りますが、コンテスト用の大吟醸酒は特別に「袋吊り法」で無圧で搾ります。具体的には、さらしの袋に醪を入れて、小さなタンクに数十個吊り下げて、無圧で垂れてくる清酒を斗ビンでとります。醪を入れる袋の手入れも、袋クセがつかないように袋を何回も煮沸し十分に確認した後に使用します。

圧をかけないことで、また香りの飛散が最小限になることで、お米の繊細な旨味と酵母のフルーティな香りいっぱいの雑味のない綺麗な大吟醸酒ができてきます。